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宇都宮家庭裁判所 昭和48年(少)1484号 決定

少年 D・T(昭三二・九・二六生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収にかかるナイフ一丁(昭和四八年押第一〇二号の一)切出しナイフ一丁(同押号の四)ナイフ鞘一個(同押号の五)は、それぞれこれを没取する。

理由

(非行事実)

少年は

第一アパートに独居している婦女子を襲つて強姦しようと企て

一  昭和四八年七月二八日午前五時一〇分ごろ宇都宮市○○町××××番地○○荘アパート××号室料理店ホステス○馬○子(当二四歳)において、六畳間ベットに就寝中の同女に対し所携の切出しナイフを突きつけ、パンティを引き下げる等して「静かにしろ、声を出すな」と脅迫し強いて姦淫しようとしたが、同女に騒がれてその目的を遂げなかつた。

二  同年八月一三日ごろの午前四時ごろ同市○○町××××番地○○アパート×号室バーホステス○沢○子(当二五歳)方居室二階六畳間において、ベッドに就寝中の同女に対し所携の切出しナイフを突きつけ「静かにしろ、騒ぐと殺すぞ、裸になれ」と脅迫したうえ全裸にして馬乗りになるなどして暴行を加え、強いて姦淫しようとしたが同女に反抗されてその目的を遂げなかつた。

三  同年同月二四日午前二時ごろ、同市○○×丁目×番××号○○荘アパート××号室喫茶店ウエートレス○久○子(当一九歳)方居室六畳間において、就寝中の同女に対し所携の切出しナイフを突きつけ「騒ぐな静かにしろ」と脅迫したうえ、同女に馬乗りになつて口を押え着用していた衣類をナイフで切り裂き全裸にする等して暴行を加え強いて姦淫しようとしたが、同女に反抗されてその目的を遂げなかつた。

四  同年同月二六日午前三時五〇分ごろ同市○×丁目×番××号○○○ハイツ×階××号室バーホステス○上○子(当二六歳)方居室六畳間において、ベットに就寝中の同女に対し所携の切出しナイフを突きつけ「騒ぐな裸になれ」と脅迫したうえ着用していた衣類を脱ぎ去り全裸にして馬乗りになるなどして暴行を加え強いて姦淫しようとしたが同女に反抗されてその目的を遂げなかつた。

五  同年同月三〇日午前六時三〇分ごろ前記○○荘アパート×号室キャバレーホステス○山○子(当二二歳)方居室六畳間においてベットに就寝中の同女に対し、所携の切出しナイフを突きつけ「騒ぐんじやない、静かにしろ、やらせろ」と申し向けて脅迫し、強いて姦淫しようとしたが同女に反抗されてその目的を遂げなかつた。

六  同年一〇月三〇日午後五時三〇分ごろ同市○×丁目○○○荘×号室バーホステス○広○子(当二四歳)方居室内において、同女に対し所携の切出しナイフを頽部に突きつけ「おとなしくしろ、裸になれ」と脅迫して全裸にしたうえ同室六畳間に仰向けに押し倒し同女の陰部に指を挿入してもてあそび更に馬乗りになつて陰茎を押しつけ、強いて姦淫しようとしたが同女に反抗されてその目的を遂げなかつた。

第二

一  同年七月三一日ごろの午前四時三〇分ごろ、前記○○荘アパート××号室ウエートレス○久○子(当一九歳)方居室内において六畳間布団に就寝中の同女に対し熟睡して抗拒不能に乗じ同女の陰部を撫で廻わす等してもつて強制猥せつの行為をなした。

二  同年八月五日午前三時三〇分ごろ、前記○○○アパート×号室無職○田○子(当二一歳)方居室北側勝手場屋根上に侵入し二階六畳間ベットに就寝中の同女に対し熟睡して抗拒不能に乗じ北側窓から手を入れ、同女の陰部に指を挿入してもてあそび、もつて強制猥せつの行為をなした。

三  同年同月二〇日午前三時ごろ、同市○○×丁目×番×号○○○荘アパート×号室スナック従業員○キ○子(当二五歳)方居室二階三畳間において、布団に就寝中の同女に対し熟睡して抗拒不能に乗じ陰部周囲を撫で廻す等して、もつて強制猥せつの行為をなした。

第三同年同月五日午前五時ごろ、同市○×丁目×番××号○○○荘アパート×階○号室会社事務員○藤○子(当一九歳)方居室内において、六畳間に就寝中の同女に対し所携の切出しナイフを突きつけ「静かにしろ、騒ぐと殺すぞ」と脅迫したうえ、両手で首を締めつけ、顔面を殴打しパンテイを引き下げる等して暴行を加え、強いて姦淫しようとしたが同女に反抗されて未遂に終つたものであるが、その際同女に対し全治一週間を要する顔面擦過傷前頸部、前胸部擦過傷の傷害を負わせた。

第四同年九月三〇日午前六時三〇分ごろ、前記○○荘アパート×号室六畳間において前記○山○子に対し所携の切出しナイフで右手拇指に切りつけ切創を負わせて同女の反抗を抑圧し「金あるかい」と脅迫し即時同所において同女から現金五、〇〇〇円を強取した。

第五同年一〇月八日午前二時三〇分ごろ、前記○○○ハイツ×階××号室○川○ル方居室六畳間において、就寝中の同女に対し所携の切出しナイフを突きつけ顔面を殴打したうえ「金を出せ」と脅迫して同女の反抗を抑圧し金円を強取しようとしたが同女に反抗されて、その目的を遂げなかつた。

第六同年同月三〇日午後六時ごろ前記○○○荘×号室において前記手段により全裸にした○広○子を屋外に連れ出し姦淫しようと謀り、同女に対し「下着をつけずセーターとスカートを着て外に出ろ、逃げたらズタズタに切つてやる」と脅迫したうえ所携の切出しナイフを同女の背部に突きつけて屋外に連れ出し、同女が逃走出来ないよう監視して、同日午後七時ごろまでの間宇都宮市内を連行しもつてその間不法に監禁した。

第七

一  同年八月二日ごろの午前三時三〇分ごろ、同市○×丁目×番×号○○荘アパート×階×号室バーホステス○谷○子(当二一歳)方居室東側便所窓ガラス戸をはずして同室内に故なく侵入した。

二  同年同月五日午前三時三〇分ごろ、前記○○○アパート一号室○田○子方居室北側勝手場上部換気穴より手を差し入れ窓ガラス戸の鍵をはずして同室内二階六畳間に故なく侵入した。

三  同年同月二七日午前二時五分ごろ、前記○上○子方居室北側出入口ドアを合鍵を使つて開け同室内に故なく侵入した。

四  同年九月初旬ごろの午前二時三〇分ごろ、前記○○荘アパート×階××号室ウエートレス○田○子(当二六歳)方居室風呂場窓から同室六畳間に故なく侵入した。

第八昭和四八年六月一一日から同年一一月一日までの間前後五回にわたり別紙一覧(編略)表記載のとおり○久○助ほか四名所有の中古自転車計五台(時価合計二万七、〇〇〇円相当)を窃取した。

ものである。

(適条)

第一の事実につき、刑法第一七七条、第一七九条。

第二の事実につき、同法第一七六条。

第三の事実につき、同法第一八一条。

第四の事実につき、同法第二三六条。

第五の事実につき、同法第二三六条、第二四三条。

第六の事実につき、同法第二二〇条第一項。

第七の事実につき、同法第一三〇条。

第八の事実につき、同法第二三五条。

(処遇)

少年の家庭は実父(四六歳)が刑務官(月収約一二万円)、実母(四五歳)は無職、実兄(二〇歳)は大学在学中(二年)であつて経済的、家庭的な面では何等の問題も無い家庭でありその次男として普通に生育して来たのであるが少年は、小学校五年から六年にかけて「どもり」の症状を呈し始めその後もこの症状は依然として継続しており現在も同様である。昭和四五年四月一日宇都宮市立○○中学に入学したころから自分が「どもる」ことを苦痛に感じ国語の時間や人前で話す際など格別嫌悪感を抱くに至つた。中学二年生の夏休暇中(昭和四七年)には横浜市所在の日本吃音研究会に通い矯正せんと企みたが成功しなかつた。

中学を同四八年卒業するに際し県立高校を受験し不合格となつたがその後私立高校の入試には合格したが来年もう一度県立高校を受験する決心で私立高校入校をとりやめ、宇都宮市内所在の進学予備校に通学し始めた。そのころから友人宅において閲読した低俗な週刊誌のヌード写真や女性の裸体画などに興味を持ち始め、その後は急速に女性の身体、陰部性交等にかんする同種の出版物の記事を読みあさるようになり、やがてこれを実行に移すことを企だて、単身でアパートに生活している女性の住居に侵入し就寝中の女性の陰部に触れたり性交を要求したり等せんことを企図するに至り、早朝または夜間自宅を出かけ本件各犯行を反復するに及んだものであつて思春期における性欲の異常な発現症状に基づくものではあるが本件各犯行の手口、態様その他諸般の情状に照らし、少年はこの際矯正施設に収容し規律のある生活に馴れさせると同時に道義心を涵養させることが必要であると思料する。

よつて少年法第二四条第一項第三号少年審判規則第三七条第一項(主文掲記の各押収物件につき少年法第二四条の二第一項第一号)を夫々適用し主文のとおり決定する。

(裁判官 藤本孝夫)

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